「変わりつづけながら変わらない」を顧客は求めている。 「社長直轄! 商品リニューアルの着眼点」 第4話

18年前、20世紀から21世紀に移り変わろうとしている時、洋菓子メーカーで主力商品であるケ ーキのリニューアルに取り組んでいました。リニューアルのテーマは「超高齢化を睨んで、商品ライ ンナップはそのままに、サイズだけ小さくしたラインをリリースする」。ミドルサイズケーキの商品開 発でした。

前職の洋菓子メーカーは「大きく美味しく買いやすい価格」というのがウリの会社です。例えば、 三角ショートと呼ばれる「毎のショートケーキ」。当時、東京近隣の洋菓子店の約1.4倍の大きさ (重量)で価格は70〜80%ほどです。看板のシュークリームも約2倍の大きさで価格は業界平均の 約半分で、看板商品として大ヒットしたロングセラー商品です。 当時はミレニアムカウントダウンの年で、2000年問題でコンピュータが大混乱すると言われ、 SONYの大型ロボット・アイボ、AppleからiBookの発売など、パラダイムシフトを肌で感じていまし た。当然マーケット・リサーチではさまざまな未来予測が出されていて、少子高齢化については、 かなり悲観的。洋菓子業界では「21世紀は少子化がさらに深刻、超高齢化社会の結果、洋菓子 マーケットまますます縮小し、和菓子の時代になる」とネガティブな分析がほとんどでした。そんな 時代背景にあって、社運を賭けたプロジェクトがいくつも立ちあがっていく、そんな状況でした。

ミドルケーキヘのリニューアルは、全国の店長たちが社長宛に報告してくる営業日報がきっかけ でした。「大きすぎて食べ残してしまう…」「もっと小さなケーキがあればいいのに」という年配のお 客様からの声が多い。という店長の手書きメモがきっかけでした。また、当時、世の中は「カリス マ・ブーム」。洋菓子業界も「スイーツ」というコトバが汎用されるようになり「若手カリスマ・パティシ エ」の台頭。繊細なデコレーションを施した小さくて都会的なケーキが注目されはじめていました。 自社が今まで支持されていると思っていた「大きなケーキ」が見劣りしお客様から受け入れられな くなるのではないか、といった不穏な空気で満ちていました。

さて、そんなミッションを言い渡された私ですが、転職し配属された店舗運営部門の販促チーム から製造部門の商品開発チームに異動したばかり。業界未経験、洋菓子の製造経験なく、最初の 頃は商品開発専属のパティシエだちとのコミュニケーションにとても苦労しました。挨拶しても口を 聞いてもらえず、ほぼ一人で取り組んでいました。

試作のサンプルケーキづくりパティシエの協力も得られないなか、思いついたのが発泡スチロー ルを使って試作することでした。隣のデザイン室へ行って厚さ7cmほどの発泡スチロールを入 手。それを専用のカッターでカット。三角形、長方形、正方形、楕円、丸型等々に切って形をつく り、ショーケース用のトレイに乗せサイズ確認をし、一枚あたりのトレイに入るケーキの入り数を変 えながら、商品仕様を検証。来る日も来る日も、発泡スチロールをカットし、形にする毎日でした。 もちろん、同時進行でマーケティング的アプローチでの調査、製造ラインでの生産効率、原価計 算、粗利確保などの検証、店舗のオペーレーティング、セールスプロモーションなど、組織的に裏 をとり、試行錯誤を繰り返しながら、これでいける。というところまで持って行きました。

が、結果的にこのミドルケーキのリニューアルは企画倒れとなりました。パティシエに作ってもら った本番に近い試作ケーキを、実店舗のショーケースに陳列し、お客様に混じって店内を回遊した 時に感じた違和感、、、。ショーケースの雰囲気が一変し「らしくない」という感覚を強烈に感じたの です。開発部門だけではなく、営業や店舗スタッフも同様だったと記憶しています。おそらく、当時 の空気感や流れの中でお客様アンケートを実店舗で取れば、間違いなくケーキの小型化は潜在 ニーズとして出てきたでしょう。

時は流れ、2017年の今。超高齢化社会真只中です。デパ地下、喫茶室、カフェヘ行けば50代、 60代の中高年層は変わらずに洋菓子を楽しんでいます。和菓子業界も「和スイーツ」という言葉を 定着させたように、ブランドリニューアルなど努力を繰り返し、若年層へのアプローチを積極的に取 り組んでいます。シニア層の顧客が多いコンビニエンスストアの冷ケースを定点観測しても、洋菓 子が減るばかりか、アイテムは増え続け、さらに和菓子も賑やかにラインナップしています。

ビッグデータの活用から小さな会社のお客様アンケートに至るまで、マーケティング活動のなか で、様々な切り口でマーケットリサーチすることは基本中の基本です。しかし、企業にとってそれら は参考データの一つくらいに考えるスタンスが必要です。顧客ニーズや市場があると踏んで商品 戦略を立てることは非常に危険です。お客様である「人」の本質を見落としてしまう可能性がありま す。新しいものも好きですが、人は基本的には保守的な生き物である、ということを忘れてはなり ません。

100年ヒットを続けているロングセラーを生み出す会社はこのあたりのことを非常に熟知していま す。カルビー、日清食品、カゴメ、ロングセラー商品ならカルピス、カップヌードル、コカコーラ…。名 前を聞いただけで、その会社の商品、ロングセラー商品であればパッケージデザイン、カラーが頭 の中で浮かんだのではないでしょうか。「カルビーといえばポテトチップス」「コーラといえば赤いパ ッケージ」等々…

あなたの会社の「軸」は何でしょうか。「○○といえば●●」そんな風に、お客様が言葉で伝えら れるものです。この「お客様が」という部分が非常に重要です。企業が声高にアピールし形成して いく世界ではありません。お客様が無意識に「感じ」て「言葉にできる」世界。その根幹となるもの は「外側」にあるのではなくて、御社の中に必ず、必ずや存在しているのです。