全体最適で「商品戦略」を考えていますか? 「社長直轄! 商品リニューアルの着眼点」 第9話

私の住む街は区内で一番高齢化が進んでいると言われています。実際に、身内も高齢化が進み、介護保険制度に助けられる日々です。

現役世代は経済事情から共働き世代が増えています。また、都心では晩婚化が進み、子育てと介護が一緒になっている世帯も多い。共働き世代の増加で、仕事をしながらの子育てや介護が当たり前の状況となっています。

わが家も共働きです。子が10ケ月の時から保育園に預け、小学校にあがれば学童保育に預け、他者の協力を仰ぎながら仕事を続けてきました。介護の実際では、家族だけでなく、介護保険制度を使いながら、血縁以外のたくさんのプロに支援してもらっています。その支援の全体像を描くのが「ケアマネさん」と呼ばれるケアマネージャーの仕事です。

ケアマネージャーの仕事は非常にクリエイティブです。プロジェクトリーダーとして、介護を受ける人の1日のスケジュールから1ケ月の短期、中期、年間計画を視野に入れてプランしてきます。福祉の仕事ではありますが、ビジネスにおけるプロジェクトマネジメントと非常に近しいです。人の心身に対する「想像力」、プランを立案し具体化する「推察力」と「実行力」、検証し改善できる「俯瞰力」。それを動かしていくのがケアマネージャーです。

しかし実際には、ケアマネのプランを元に生活を動かし始めて3ケ月、日々「検証」とプランの「改善」が必要です。人的なトラブルも多く、ヒヤッとする事態が当たり前のようにあります。関わってくる人も20名を超えて、家の中に「他人」が入れ替わり立ち替わり出たり入ったりする状況で、高齢者にとっては、自身の体調以上にその煩わしさに疲弊することなども経験するまでわからなかったことです。国は在宅介護を推進する動きがありますが、介護保険制度の限界で、資金的な課題も山積しています。

この体験の中で、私が実感したこと。それは、どんなに素晴らしいプランでも、部分的に問題や課題、つまり流れを阻む「制約」があれば、プロジェクトは進まない。効果も出ない、ということです。このことはアメリカのマーケティング用語でよく使われる「全体最適」と「部分最適」という「制約理論」の考え方がそのまま当てはまります。

「全体最適」と「部分最適」という考え方は、イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士が発表した「制約理論」(TOC=TheoryofConstraints)の中で使われます。日本では「ザ・ゴール」のビジネス小説が有名なのでご存知の方も多いと思います。

博士が提唱した制約理論は問題解決の手法であり、問題解決の思考プロセスです。ビジネスにおけるそれぞれの工程で発生する現象(問題、制約)について「症状はいくつかの外部の現象が要因として重ね合わさって起きている」(岸良裕司著/ダイヤモンド社「全体最適の問題解決」)と定義。それぞれ部分的な問題を改善し全体としてつなげていく(和をもたせる)問題解決プロセスを「全体最適」と定義し、部門的にパーフェクトな状態(部分最適)であっても、それが連動していなければ、問題解決にはつながらない、と提言しています。

介護の現場では全体を通して素晴らしいプランが出来上がったとします。実際に動いてくれる医師、看護師、介護ヘルパー、部門がチームとしてサポートしてくれていても、介護をうける本人のモチベーションが低ければ、成果がでません。また、どんなに当人に意欲があっても、プロの技術不足など、ひとつでも制約が発生すると、前に進むことが難しく、日々の生活に支障がでます。ケアマネによる「全体が最適」なプランが出ていても、プロセスにおいて一点でも制約がある場合は全体がうまく進まない。また、それぞれの技術が卓越でも(部分最適)、全体のプランがつながる仕組みになっていなければ、それは机上の空論となり、実際には役立ちません。

経営において「部分最適」とは、組織における「部門」と捉えることができます。総務、人事、営業、販売、商品開発、企画、宣伝、マーケティング…。それぞれの部門のどこかに、微細な「制約」があれば、全体最適にはならない。また、一つ一つの部門が卓越していても、組織全体として連動しなければ、問題は解決しない。これは当たり前といえば当たり前の話です。ですが、当事者として組織の中にいると、このことに気がつかないものなのです。どうしても自社のことになると客観視できず、目の前の「希望的で楽観的な観測」に飛びついてしまいがちです。

改めて思考をチェックする時です。ビジネスは「全体最適」です。世の中にはキラッとした美しい形容詞のついた情報が氾濫しています。あるいは、様々なツールで溢れています。それらひとつひとつは、提供者が伝えるように素晴らしく卓越したものかもしれません。しかし、冷静に考えてみれば、そのパーツパーツで「売上がアップ」したり「業績向上」したり「○千万、〇〇億超え」になったりするのだろうか。そんなマジックがあるでしょうか。商品サービスのリニューアルにも、商品戦略を動かす売り方までをしっかりと含めた「仕組み」が求められ、全体最適の思考プロセスが必要不可欠です。

施策がきいていない、様々なツールを使っているのに効果がでない。そのような時は、ご自身の思考プロセスを検証してください。全体最適の視点を改めて採り入れ、部門のどこが制約となっているのかを発見することができるはずです。