自社の強みはフレームの外にある。 「社長直轄! 商品リニューアルの着眼点」 第8話

東京はソメイヨシノが満開です。新年度ということもあり、テレビ番組の改変をはじめ、商品サービスのリニューアルを様々なところで目にします。満開のソメイヨシノもその寿命は60年であり、今東京で咲いているものはオリンピックの昭和30年代に植えられたそうで、そろそろ手を入れてゆかなくてはならない時を迎えています。ビジネスサイクルも30年、60年、120年と30年サイクルで考えられていますが、自然の循環と符合していることがとても感慨深いものです。

先日、ママ起業家の友人からの愚痴のような相談のような話を耳にしました。友人はシングルマザーであり、二年前に長年の夢だった地域密着のカフェをオープンさせました。人柄も良く、彼女の作るスイーツが美味しいと評判になり地元商店街の方をはじめ、ママ友やその家族、口コミでお客様が広がって順調な売上を伸ばしていました。

子供が二人いて、まだまだお子さんにお金がかかる時期。さらにもう1店地元に出店し事業拡大、経営の安定化を目指したい。そう決めてから、自治体が主催している6回の起業講座に申し込み、中小企業診断士から経営指針書の作り方、地元で活躍しているマーケターからマーケティング戦略などを教えてもらい、着々と2店舗目出店へと駒を進めていました。起業講座では、今まで学んだことのなかった「マーケティング」の講義が新鮮だったそうで、SWOT分析によって「自社の強み」と戦略がわかった!とのことでした。

SWOT分析(SWOTanalysis)は、強み、弱み、機会、脅威の4つのカテゴリーで要因分析し、めまぐるしい事業環境変化に応じて、経営資源の最適活用を図るという経営戦略を決めるためのツールの一つです。1960年代、スタンフォード大学で研究プロジェクトを導いた研究者が開発したツールだそうです。

マーケティングの分野において、日本でもすっかり浸透定着しており、中小企業の経営者が集まる経営指針作りセミナー等では、まずマーケティングといえば「SWOT分析」が分析ツールとしてあがる、と聞いています。自治体主催の起業家セミナーでも同じ状況だと見聞きします。だれにとっても、使いやすく、わかりやすく、実行しやすい、汎用性のある経営戦略にかかわるツールとして認知されています。講座の中で、士業先生の支援もあり、友人はすっかり自信を持って、駒を進めていました。

しかし「だれにとってもわかりやすい」には注意が必要であり、とても危険なことだといえます。 友人は経営指針書を作り、習ったマーケティングによって戦略も立てて、宣伝や販促も実施し、無事2店目のオープンにこぎつけました。1店舗目は駅から離れた閑静な住宅地にあり、新店は駅から徒歩5分圏内です。

1店舗目を応援してくれたママ友やその友達、地元商店街の仲間、先輩たち、既存のお客様、みんなが喜んでくれると思って出店した友人は、思わぬ展開にショックを受けました。

それは「ママ友だと思っていたのに経営者きどり」「シングルマザーだからこそ、大変だと思って応援してきたのに。駅前にもう一軒なんて生意気だよ」「女のくせにビジネスの土俵に上がるなんて、、、」などと、今まで贔屓にしてくれていた友人や仲間から、このような言葉を投げかけられることになったのです。意外なお客様からの反応にすっかり意気消沈、「経営戦略をしっかりと立てたはずなのに、、、強みを生かしてやりたいことをやっているだけなのに、、、」。満開の桜の下で、悔しそうに振り返る彼女の横顔を見ながら複雑な気持ちになりました。

分析シートに書き込み、自社の強みを分析する。あまりにも安易に考えすぎなのではないか。だれもが使っている汎用性のあるツールやフレームを使ってプランを作り上げたことと、商売を実際にすることの雲泥の差。彼女の「できる気になった」ということがそもそもの間違いではなかったか。お勉強とビジネスの現場は、天と地ほどに違う。学ぶことが悪いのではない。「できる気になった」彼女が悪いのです。

自社の強みや魅力は「お客様」が解を持っています。無言でジャッジするお客様の声は「売上」という数字として現れてきます。また、経費をかけてアンケートの実施、グループインタビュー、ヒアリング調査など様々な視点で俯瞰的にリサーチする企業もあります。その上で、今いるお客様の声に、全神経を集中させて「自社の強み」を拾い集めていくこと。無言の声に気がつくこと。そして、友人が体験したように「見えない人間心理」を読んでいくこと。このように非常に有機的でナマナマしい努力の積み重ねこそが求められているのです。

マーケティングについて知っておくことは、ビジネスにおける基本中の基本です。自分の思考を「整理」することも時に必要となります。それができなくて商品サービスにかかわる戦略的判断など下せるはずがありません。問題なのは、一生懸命フレームに落とし込むことが目的になり、完成により「できるような気」になってしまうことなのです。

経営にかかわる自社商品サービス戦略の指揮官である経営者にとって、必要なのは「だれもが使えるツール」ではありません。自社独自で作ったオリジナルの未来地図です。簡単にできるフレームワーク、書籍、セミナー、教材、、、手に入りやすい価格、無料サービス、、、そういったものに本質的な価値があるだろうか。一度立ち止まって考えて見てください。そうしたものは「できる気」にさせるだけあって、本気で取り組もうとする御社の商品サービスリニューアルにとって、まったく関係がない、と提言します。