成功する経営者はなぜベートーヴェンを聴くか 「社長直轄! 商品リニューアルの着眼点」 第184話

「主要国経済1割縮小」(日本経済新聞)、「GDP戦後最悪の下落/4月〜6月年率27.8%減」(朝日新聞)・・・、大見出しが乱舞しています。わたくしたちの行動が反映した「個人消費低迷」ですが、この根底にあるのが、生活者のコロナ禍マインドです。さまざまな情報が錯綜し、かえって不安や恐怖心が拡大するばかりでしょう。大局観で商品サービスを企画する使命を持つ経営者にとって、今最も大切なことは「信念」です。

 

サミュエル・スマイルズ「自助論」(竹内均訳・三笠書房)の中に、天然痘の予防法を世間に広めたエドワード・ジェンナーというイギリスの医学者が紹介されています。ジェンナー氏は天然痘ワクチン開発者と呼ばれ、「近代免疫学の父」と言われています。

 

ジェンナー氏の生誕は1749年。この頃、それまで手でやっていた機織りが機械化へと進化する時で、産業革命の黎明期。天然痘も流行中でした。当時はすでに牛痘(牛がかかる疱瘡)の存在が知られており、ジェンナー氏が生まれたイギリスのグロスターシャー地方で牛の乳搾りをしていた女性の間では「牛痘にかかった者は天然痘にはかからない」という説が広く流布していました。

 

医学界では「根も葉もないくだらぬ噂にすぎない」と片付けられ、誰もその真偽を検証しなかったため、ジェンナー氏が調査と観察をスタートさせました。261775年にから研究し始め、医師の仕事をするかたわら、23年後の1798年に天然痘の予防法を発表。

 

しかし、発表後、世間からはなかなか認められず辛酸を味わうことに。初めは黙殺され、ついでに露骨な敵意が巻き起こります。当時の医学界からは総スカン。それだけでなく、彼の意図は歪曲されて世間に伝わり、誹謗と中傷にさらされたそう。

 

世間では、「牛の乳から出る病菌を人の体に植えつけて、人間を動物に堕落させようとしている」というもの。牧師たちは「魔法妖術のたぐい」と非難。種痘を受けた子供は「牛のような顔に変わり」「額が晴れて角が生え」「声まで牛の鳴き声とそっくりになる」という噂がまことしやかに伝えられたといいます。

 

それでも、ジェンナーの方法には確かな効き目があるため、激しい反対にも関わらず、種痘を信じるものが増え、自分の子供に種痘を受けさせるセレブたちの行動が偏見を打破する糸口となり、医学界でも風向きが徐々に変化していったそうです。認められたら認められたで、氏の成果を横取りしようと企む同業者も現れたようで、人間心理は21世紀になった今でも変わっていないことに気づかされます。

 

世間からなかなか認められず辛酸をなめた経験を持つジェイナー氏のエピソードですが、これを紹介しているサミュエル・スマイルズ氏は「偉人の中には、世間からなかなか認められず辛酸をなめた経験を持つ者も多い。だが真に優れた人間は、他人の評価などにあまり重きを置かない。自分の本分を誠心誠意果たして良心が満足すれば、それが彼らにとっては無常の喜びとなるのだ」とし、「信念は力なり」と自助論の中で説いています。業績の良い会社の経営者が愛する作曲家のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンもまた信念の人です。

 

天然痘の時代と2020年の今とでは、生きる環境はあまりにも異なります。しかし、テクノロジーが進化しても、人間のマインドとその反応は驚くほど変わっていません。新しいことは社会、学界、世間から反発をくらう。誹謗中傷、デマが流れる。ペテン師のたわごとと片付けられる。本人には侮辱と軽蔑の言葉が届き、友人知人も去っていく・・・。驚くほど人間とは泥臭い生き物だと学びます。そして、どこかホッとします。

 

冒頭に戻ります。消費者マインドが冷え込んでいます。自身の周辺を見ても、自社を見ても、そしてリーダーである自身の心の内を内観すれば、出てくるのはため息ばかりではないでしょうか。

 

しかし、様々な情報と憶測が流れるなか、不安と恐怖が“枯れ尾花”であるケースも多いでしょう。コロナウィルスと経済の落ち込み・・・。21世紀のわたしたちにとっては「初めての」経験。しかし、自助論に紹介されている通りで、人類は何度も似たような出来事を繰り返しながら進化してきました。

 

未来をつくるのは、今を生きるわたしたちの行動でしかない。「不安」や「怖い」を考えている行為そのものが未来をつくるのではない。ジェイナーのように、実践する、やってみることが、未来につながっていく。自助論は伝えようとしています。

 

企業において、社運を賭けた勝負に出ることができるのは、社長です。この危機的状況において、覚悟をもって「信念」の道に進むことができるのは経営者だけです。その一歩を踏み出す経営者にとって、わたくしどもの商品リニューアル戦略は「武器」となります。いいままで担当者任せだった商品戦略を、いまいちど社長直轄にすることで商品力が力強く芽吹き始めます。

 

生活者は今「枯れ尾花」を見ています。だとしたら、どうやって明かりを灯しましょうか?  どうやって夜の太陽を、夜の花火を打ち上げてゆきましょうか? どんな夢を、希望を打ち上げていきましょうか? ・・・新しい時代がはじまっています。わたしたちが新しい世界、新しいマーケットを作ってゆくのです。新しい時代だからこそ、わたくしたち経営者にはお客様の心を動かす「夢」を打ち出す使命があります。

 

千里の道も一歩から。新しいことは、すでにあるもの、今ある商品サービスの組み合わせで生まれます。商品戦略こそ、商品リニューアルこそ経営そのもの。自社の本分を誠心誠意果たし、前進してまいりましょう!