新しい市場を生み出す商品リニューアルの考え方 「社長直轄! 商品リニューアルの着眼点」 第194話

コロナ禍を経た今「モノこそ思い出。」の時代であり、あらためて「モノ」の価値が見直されている時代です。2001年の日産自動車から発売された「セレナ」のCMで使われた「モノより思い出。」という有名なキャッチフレーズがありました。当時、洋菓子メーカーの販促部門に所属しており、同僚の仲間たちと、「モノより思い出。って、ほんとうにその通りだよね!」と、共感しあっていたことが印象深いです。

 

小泉政権発足、デフレ進行、同時多発テロ、アメリカ軍のアフガン攻撃等、ザワザワとした時代を背景に、「壊れてしまうモノ、無くなってしまうモノはむなしい」、そんな空気感が漂っていました。「壊れて滅するモノよりも、目には見えない思い出を作ることの方が尊い」という潜在心理に刺さるコピーでした。

 

それから20年の今、世界中がコロナ禍にあって、第4次産業革命の真只中です。官公庁での押印がなくなり、教科書の電子化、キャッシュレス決済が「あたりまえ」として、デジタルとつながる世界が一気に浸透し始めています。

 

便利でラクなデジタルの世界ですが、弊害もあります。デジタルは、一瞬にしてプツンと消えます。跡形もなく消えてしまいます。そこには「余韻」がありません。巣ごもり時代になって、わたしたちは繭にこもりはじめました。通勤時間が減ることで、ゆとりが生まれました。かつて、モノより思い出だと思っていたわたしたちは、プツンと突然消えるデジタルの世界になって初めて「モノ」の本質に気づきはじめています。

 

例えば「服」というモノでは、おろしたてに違和感を感じることがあります。既製の型で作るので、自分の身体になじむまで時間が必要です。「着て洗って」を繰り返しているうちに、生地が身体になじみはじめます。身体になじみはじめると愛着が生まれます。クローゼットの奥にしまってある服を取り出して、処分するかどうかを考える時、「子供が、赤ちゃんだった時に醤油をこぼしてついたシミだな」と、忘れていた出来事を思い出すことがあります。洋服に積み重なっていった時間を感じています。

 

「本」もまた同じです。本、雑誌や漫画にはそれぞれに「匂い」があります。洋服のごとく、美しいカバーがついています。ページに触れると、ツルツルとかザラザラといった紙の感触がわかります。「広辞苑」であれば、ズシリ、重さを感じています。

 

本は飛ばし読みができますし、余白に書き込むことができます。読まれることによってページのヘリが柔らかくなることがあります。ページが折れることもあります。ページを開いた時に、「スターバックスでコーヒーをこぼしてしまった時のだ」と思い出したり、古い本であれば、かつて向かい合っていた自分と出会えます。服と同じように、本にも時間や思い出が積み重なっています。

 

モノとは、わたくしたちにとって、単なる物体でありません。モノとは、ひとの「時間」の積み重ねであり、わたしたちの記憶とつながっています。わたしたちにとって、モノこそが思い出。すべてがデジタルとつながっている状態を「当たり前」とする方向に国が舵をきった2020年、わたくしたちは、モノの価値を再発見しています。「モノより思い出。」のコンセプトは進化して、「モノこそが思い出」という新しい価値観に目覚め始めています。

 

詩集、古典の本、猫、ラジオ体操、レコード盤、ハーブ、観葉植物、花、刺繍、カリグラフィー、洗濯、固形石鹸、ミニチュア、サボテン、野菜栽培、キャンドル、精油、手編み、日記帳・・・、こうしたモノが静かにブームになっています。生活者が「時短」需要を超えて、真逆の「手間」、すなわち時間をかけることに価値を感じ始めているのです。

 

近い将来、ハンコがなくなる、紙の本がなくなる、現金がなくなる・・・、だれにお聞きしても「YES」と断言されるでしょう。この流れは止めることができない、と。確かに、物理でいう「慣性の法則」に従えば正しい意見かもしれません。

 

しかし、商品リニューアルコンサルタントのわたくしは、少し異なる考え方を持っています。地球上にいるかぎり、わたくしたちは物理的な感覚、そしてカンを持って生きています。そのカンとは「重さ」と「時間」です。重さと時間を感じて生きているのがわたくしたち人間です。これは空想ではなくて、事実です。

 

時間と重さを感じながら生きているわたくしたちには、質量のある「モノ」そして、時間を積み重ねることで価値を生み出していく「モノ」はどうしても必要なのです。ゆえに、絶対になくなることはないと確信しています。大事なポイントは「価値のあるモノだけが残っていく」。時代に合わせて商品リニューアルし、新しい価値を磨き上げて生まれ変わることができたものだけが残っていくのです。

 

ものづくり、メーカーであるならば、自社の真の価値とは何か? を問うてください。そして、コンセプトの丸ごとリニューアルによって、新しい文化が生まれます。文化を啓蒙していくことで、新しい市場が生まれます。

 

時々、だれかの定めた世界でご商売する選択を自ら選びながら、悩み苦しみ愚痴を言う人がいます。だれかの定めたルートでただただ待つだけで、仕事がないと嘆く人がいます。今流行りの言葉ではありますが「生殺与奪の権を、他人に握らせるな!!」と、わたくしは言いたい。時代のせいでも、だれのせいでもない。それを選んできた自身がわるいのです。自戒として書き記します。

 

商品サービスを見つめ直すことは、自社を見つめ直すことです。商品リニューアルは、自社のリニューアルと一体です。いよいよ「モノ」の時代です。真の「ものづくり」の国日本がこれから試されていきます。古い時代の商品サービスから新しい時代の商品サービスへ、しっかりと商品リニューアルすることが求められています。