曇りを晴らすネーミング 「社長直轄! 商品リニューアルの着眼点」 第92話

わたくしたち中小企業にとって一番大事なことは「自社の存在価値を信じ続け、世に打ち出すこと」です。経営資源の豊かな大手企業は商品戦略がマンネリ化していたとしても、商品サービスがお客様に届くまで頑強な仕組みがあるがゆえに一度ラインに乗せれば大きな売上をとってゆけます。一方、失敗が許されず新しいことへの挑戦ができない現実もあります。

 

最近「ハレタ!」という洗濯用コンパクト液体洗剤がリリースされました。洗濯用洗剤ではロングセラーの「トップ」の新ブランドです。パッケージデザインは、白ベースのボトルカラーに、クレヨンで描いた虹色でカラフルです。

 

ボトルにはかわいい顔が描かれ、擬人化されています。このボトルの主人公は男の子で「ハレタくん」という名前だそうです。液体の色はベビーピンク、香りはサニーフローラル、ボトルキャップもオシャレな意匠で軽量メモリの表示は「♡」で示されています。この洗剤のウリは「晴れ干し触感のふっくら仕上げ」ということです。よくあるコンセプトで、特に新しいテクノロジーというわけではないようです。

 

写真の通り、トップやアタック、アリエールのような「強さ」を押し出した既存商品とは、圧倒的に佇まいの異なる「ハレタ!」。ドラッグストアで販売されている、本体と詰め替え用がセットになったパッケージセットの中には「ハレタくんシール」がついています(写真右)。そのシールはハートマーク、りぼん、ひげ、サングラス、花、などで「変身シールを貼ってかわいいボトルつくってね」と書いてあります。つまりこのシールでマイボトルを作ってね、ということです。着せ替え人形が好きな女性好みの商品です。この商品を手に取れば、だれもが「30才くらいの子育て中のママたちが使うのかな〜」と感じるのではないでしょうか。実際の CMではタレントの優香さんが起用されています。

 

 

ところが、わたくしが実際にドラッグストアで目の当たりにしたのは、想定イメージとはことなる場面でした。40代半ばの友人が「これ可愛いよ」と言って大量に買っている姿です。

 

その友人がハレタ!を知るきっかけとなったのが、50代の友人宅だったそうです。ハレタ!を使うようになってから「洗濯が楽しくなった」「ボトルに癒されている」とかで、自分も欲しくなったそうです。話を深掘りして聴いてみると、彼女たちはそれぞれに親の介護をしていたり、自身の不調で悩んでいると言います。

 

曰く、どんなライフにも、晴れの日もあれば曇りもある。子育て中は忙しすぎて「自分の時間がない」と感じる曇りの日がある。一人で生きている人は「心細くなったりする」曇りがある。中年になれば自分のケアと老親のケアで曇る日もある。そう言う時に「晴らしたいって思うんだよねー」と、ハレタ!を見つめて教えてくれました。何と、子育てを終えつつある女性たちがこのボトルに癒され、家事が楽しく感じるようになっているのです。わたくしも実際に購入して、マイボトルを作りました。リカちゃん人形で楽しんだ世代です。こうした細々とした変身はとても楽しく、違和感がありませんでした。余ったシールはグリーティングカードに貼ったりし、まったく違う楽しみ方をしています。

 

この商品が秀逸なのがパッケージにも表現されている通り「ごきげんお洗たく」という新しいマーケットを創造した点です。テクノロジーの革新性はない。しかし、確かにこの商品を使うことでごきげんになっている生活者がいる。少なくとも不機嫌にはならない商品です。ライオン株式会社の製品で鉄板ブランド「トップ」の新ブランドですが、この挑戦とユニークな着眼を、わたくしたちもエッセンスとして取り入れたいものです。

 

ライオン株式会社がどの程度まで顧客層をイメージしたのかはわかりません。売上についても実際の数字をみて分析する必要があります。が、少なくとも身近なところで小さなブーム。この商品を熱く語る40代50代の女性がいます。若いママたちだけでなく、あらゆる世代の「ごきげんになりたい女性」たちの心を動かす潜在力のある商品なのです。

 

アップルがノートブック型パソコンを初めて手がけた時のエピソードをご存知でしょうか。開発時、シナリオとしてはビジネスパーソンが飛行機内で使用するシーンを想定していたそうです。そこに照準を合わせて販売戦略を考えていました。飛行機の電気系統との兼ね合いを考慮し、コンピュータが問題なく作動するようかなりの時間を費やしていたそうです。ところが、蓋をあけてみるとどうでしょうか。飛行機の中で使う人はそれほど多くなく、飛行機以外のいたるところで使用されていました。

 

アップル社のS・ジョブズがいなくなった後も、この世界には優秀な人たちが描いた「将来のシナリオ」であふれています。しかし生活者目線で暮らしを見渡してみてください。思いもしなかった市場に飛び込んだり、旧態のジャンルにリニューアルを仕掛けることで、思いもしなかった顧客、思いもしなかった目的のために自社の商品サービスに注目し、使ってくれることがあります。既存の商品サービスをリニューアルすることで、新しいジャンル、新しいマーケットを開拓することができます。チャンスはみな平等にあります。しかしそのチャンスを活かすことのできる企業とできない企業があります。その違いは何か。冒頭にお伝えしたように「自社の存在価値を信じ続ける」そして「自社の存在価値を世にコミットする」、その熱量、いわば情熱ではないでしょうか。

 

誰かがつくった将来のシナリオを疑いましょう。自分たちの存在価値を信じ続けましょう。流れる水は腐ることがありません。商品には変化が必要であり、経営とは「変化」そのものです。新商品は複数の古いアイデアとアイデアの融合、妙であり、商品リニューアルによって生まれます。「変化」を仕掛けてゆく仕組みが定着することで、御社の商品世界は無限に広がってゆきます。

 

自社の存在価値を世にコミットしましょう。過去の成功体験や失敗にとらわれることなく、商品リニューアルというユニークな仕組みを定着させて事業ステージを豊かに飛躍させましょう。2019年、新しい一年が始まろうとしています。