「変わらない」という羅針盤の原理 「社長直轄! 商品リニューアルの着眼点」 第99話

2019年がスタートいたしました。昨年末の流れから、本日のテレビや新聞などのマス媒体、インターネット、SNSなどの言葉で顕著なのが「新元号」「東京再び」などの、時代が大きく変わるゆえ「変わりましょう」と「変化」を促す言葉が目につきます。生活者は、こうした情報から「新しいことを始めよう」や「リセットしよう」といった気分が高まることが予想されます。企業活動においても「変わらなくちゃな」と新春にふさわしく士気を高めていらっしゃると想像できます。ですが、むしろ御社における「変わらない軸」の再点検、見直しが最も重要と提言しております。

 

昨夜、12月31日の大晦日はどんな年越しを過ごされていたでしょうか。それぞれのご家庭に「わが家の年越し定番メニュー」があるはずです。わたくしの家では毎年「すき焼き」をするのが定番になっています。31日に地域(東京・世田谷)のスーパーや精肉店から、すき焼用の牛肉を入手します。昨日もスーパーオオゼキ3店舗、サミットストア2店舗、個人精肉店2店舗を回りました。産地しばりで、たいてい3種類の価格帯の牛肉が用意されています。昨日は午後7時時点で、どこも「真ん中」と「高い」価格の牛肉が残り、いちばん「安い」のものが欠品です。去年とは状況が異なりました。スーパーの売り場担当者も、精肉店のご主人も「今年は高い肉が出ない」と話しています。データを紐解く前の、生活者の実感ですが、強烈に生活者の「節約傾向」を強く感じました。

 

商品サービスにおいて「いまの時代の気分」を背景に、生活者が求めている欲求や願望を見定めることは生命線です。わたくしたちはさまざまな情報のバイアスにかかりながら、目の前の牛肉を選び判断し購入しています。そこには、直感的な本能、そして心理の本質があります。情報のバイアスを軽くとびこえてしまう強い衝動があります。時代が変化してゆくなかで、生活者の「衝動」の本質に近づく姿勢がわたくしたちには求められています。

 

古い資料の中から、日本経済新聞での「豊かさのV字回復 月尾嘉男さんに聞く」というインタビュー記事を見つけました。ちょうど6年前、2013年1月12日夕刊の記事です。そのなかで、中国の内モンゴル自治区では、漢民族に土地を分割した結果、過度に羊が飼われ数十年で草原が荒れ果てて砂漠化したこと、1920年代に建築分野でインターナショナル様式という概念が広がり、大量生産大量消費が前提が前提としたコンセプトゆえ環境問題につながっていること、時間とともに進歩するという西洋的進歩史観信仰が限界にきていること、などを引き合いに出しながら、「私たちは、新しい価値観で生活をみなおしてみるべきです」と提言されています。経済のV字回復は困難でも、社会のV字回復を目指してはどうか。「縮小の時代に、これまでとは別の価値観、幸福の尺度を据え」ることを提案されています。

 

月尾氏の記事から6年、わたくしたち生活者は「縮小の時代」ということをますます肌で実感するようになっているのではないか。どんなにメディアなど媒体を通した情報戦略で生活者を煽っていたとしても、街の暮らしを通して、店が減り人が減り、子供が少なく、老人の多い暮らしになっています。外国人の方に助けてもらわなければいけない状況であることも、日々のニュースから感じています。また、人生100年時代におけるリスクも生活の中で実感し、そして秋には増税が控えています。どんなに政治がかつての「V字回復経済」ドリームを説いたとしても、生活者実感とは乖離するばかりです。

 

さらに、超高齢化社会から「超重老齢化社会」になりました。アクティブシニアはいっときの夢、老人が老人を支え合う現実、そして「死」が非常に身近な社会に変容しています。数年前までは病院で亡くなるのが当たり前でしたが、今は自宅で亡くなる方が増えてきています。生きる人が活動している「生活」と「死」が非常に接近しています。より死が身近になっていることで、潜在的に第三者としてその状況を観察しながら「わたしたちは何ひとつ持っていけない」という事実を体験する人が増えているということを示唆します。お金も家も車も、恋人も家族も何ひとつ持っていけない。地位も名誉も身につけている宝石もコレクションも、何ひとつです。これは不易流行の真理です。生活者の間では、“もう「モノ」じゃないよね”という気分が急速に深まっています。

 

例えば、御社が洋菓子や和菓子を作っている会社だとして、今の生活者は潜在的に「〇〇屋の羊羹は大好きだけどあの世に持ってゆけないよね」とか「毎年お正月限定の〇〇セットを集めて来たけれど、こういうのってあの世に持っていけないよね。荷物ばかり増えちゃうな」ということを肌で感じながら生きています。こうした人のライフに対する「価値観」が基盤としてあり、その上に「元号改変」や「オリンピックイベント」「消費税増税」などの要素が乗っている構造です。大事なのは、御社の商品サービスが、生活者が有するライフの「基盤」という本質的土台を刺激しているかどうかです。御社が生活者のライフにどんな「新しい価値」を提供しているか、ということです。御社が「何をもって」生活者に知っていただき、選んでいただき、永続的につかっていただける会社となるのか

 

変わる。変わろう。としてはいけません。むしろ今、御社の商品サービスにおいて「変わらない」本質を突き詰めてゆく時です。この新しい年のスタートに、大きくかつ具体的に御社の「変わらない軸」をリニューアルしてください。さまざまな情報を一度シャットアウトしてください。そして静かな気持ちで、御社の「変わらない」に一点集中し、思考をリニューアルする時です。「変わり続けながら変わらない軸をもつ」という、一見相反する思考を戦略として具体化していくことがこれからスタートする大航海の羅針盤となるのです。